親鸞聖人の90年の生涯の間、多くの著作がなされた。一番早く成立したのは、『教行信証』(顕浄土真実教行証文類)6巻であったという。これは関東にこられてから10年目の元仁元(1224)年おん歳52歳の時であった。この年はまた、法然上人13回忌の年に当る。現在の真宗教団はこの年を立教開宗の時と定めている。浄土宗では『選択本願念佛集』が成立した建久9(1198)年を立教開宗の年とする。但し、法然は一宗を開く意図があったが、親鸞にはなく、自らを師説の継承者にすぎぬとした点が異なる。
『教行信証』の各巻の始めを開くと、『愚禿釈親鸞集』と記されている。これは自らを著者ではなく、編集者と言明していることになる。つまり、この書は自己の主義・主張を発表するためではなく、インド以来のあらゆる佛教国(西蕃・月氏・東夏・日域)の古来からの幾多の人びとの念佛生活の味わいを集大成したものであるというのである。すなわち、引用文が主人公であるような性格の書であり、これは浄土門の先覚者の主著、源信の『往生要集』、法然の『選択本願念佛集』と同一軌道上にあることが分かる。事実『教行信証』は引用文が八割を超え、ご自釈は二割以下である。念仏の深い味わいを吐露したコトバに出遇うたびごとに宗祖は躍り上がって喜んだに違いない。本書はそれら珠玉のコトバの宝庫である。この聖典は現代のわれらを「聞く所を慶び、獲る所を嘆」じた宗祖の法悦に直かに触れさせて下さるこよなき媒体でもあるのである。
| 文・坂東 性純氏(ばんどう しょうじゅん 東京都台東区 報恩寺前住職) |
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